「あれ?今日あの人来てないの?」
朝礼で集合すると、新人さんが出社していなかった。
派遣の担当者が寮に確認に行くと、畳まれた作業着と「辞めます」という手紙が置いてあったらしい。
僕が教育者として仕事を教えた派遣社員が飛んでしまった。
2ヶ月仕事を教え、僕が係長に「もう独り立ちさせて大丈夫」と伝えた翌日。
僕がしっかり相手の気持ちを考えてれば、その人は仕事を辞めていなかったかもしれない。
もくじ(タップで開閉)
- 第1章:【実話】部屋の真ん中に畳まれた作業着と「辞めます」の手紙
- ◾️僕なりに丁寧に新人教育したつもりだった
- ◾️もう独り立ちさせて大丈夫だと思った
- ◾️出社しなかった派遣社員と畳まれた作業着
- 第2章:僕の前に10人続けて辞めた職場の教育者
- ◾️僕に仕事を教えた10人に辞められた教育者
- 第3章:僕が仕事を辞めなかったのは教育者の問題じゃない
- ◾️「半年かかる」と言われた仕事を1ヶ月で覚えた
- ◾️仕事が続いたのはやりたいことがなかったから
- 第4章:きっと僕は10人に辞められた教育者と同じことをしていた
- ◾️教育者が自分の基準を押し付けた
- ◾️体力的にきつい仕事でもあった
- 第5章:10人辞めさせた教育者は一度も自分を責めなかった
- ◾️だからといって「あなたは悪くない」とは言わない
- 第6章:新人を辞めさせた僕がやっている2つの確認
- ◾️声をかけることで新人教育が理由で辞める人がいなくなった
- ◾️大事なのは「相手に合わせる」だけだった
- 🌱 新人が辞めた…教育係の悩みQ&A
- あとがき:新人教育も人生も失敗の積み重ね
- 新人が辞めたことで感じている「自分のせいかもしれない」という自責の念が和らぎ、心が軽くなる。
- 新人が辞めてしまう「教育係が陥りがちな共通のミス(自分の基準の押し付け)」に気づき、同じ失敗を繰り返さないための視点が手に入る。
- 次の新人から「やっぱり辞めます」と言わせないための、明日から使える『2つの確認フレーズ』が分かり、教育へのプレッシャーが減る。
第1章:【実話】部屋の真ん中に畳まれた作業着と「辞めます」の手紙
物流倉庫で働いていた時の話。
他社から入庫した部品を検収し、現場へ供給する仕事を任されていた。
3年くらい経った頃「フォークリフトで供給する作業に異動してほしい」と言われ、引き継ぎ役として派遣の新人さんが入社する。
◾️僕なりに丁寧に新人教育したつもりだった
過去に3人に仕事を教え、工場内で迷子になった子がいたので、まず工場内の道を覚えてもらう。
まず環境に慣れてもらわないと何を伝えても頭に入らないからだ。
自分の作業をしながらも、相手の反応を見ながら段階を少しずつ進めた。
派遣の彼が入社して2ヶ月ほど経ち、僕の目には「あとは自分で失敗しながら覚えるしかない」という段階に見えた。
「相手の視界に入っているか」「ついてこれているか」を確かめず、親切心のつもりで空回りしていた最初の失敗。
◾️もう独り立ちさせて大丈夫だと思った
まだ完璧ではないが、僕は「仕事は自分で失敗しながら覚えるもの」だと思っている。
だから係長に「もう仕事はできるので独り立ちさせて大丈夫ですよ」と伝えた。
「じゃあ明日からフォークリフトの仕事を覚えてくれ」と言われ、派遣の彼は一人で仕事をすることになる。
だが翌日、彼の姿は朝礼の場になかった。
| 本人の経験・失敗(70%) | 他者からの指導・研修(30%) |
|---|---|
| 最も重要な成長のコア 【手取り足取りでは身につかない】 自分で考え、壁にぶつかり、失敗して痛みを知る。この泥臭い実務経験こそが、大人の成長要素の7割を占めている。 |
教育者の責任範囲 【実は全体の3割でしかない】 先輩からのフィードバック(20%)や、マニュアル・研修。(10%)教育者が教えられることは、本人の成長機会のサポートに過ぎない。 |
「新人を辞めさせてしまった…教え方が悪かったのか」と自分を責める教育者は多いが、すべてを背負い込む必要はない。アメリカの研究機関が導き出した『70:20:10の法則』によれば、仕事のスキルの7割は「本人が現場で失敗し、そこから学ぶ経験」によって形成されるという。
「仕事は自分で失敗しながら覚えるもの」という考え方は、心理学的にも正しい。教育者が手取り足取り教えられるのは残りの3割だけであり、7割の部分は本人が自ら乗り越えなければならない。もし新人が「失敗するプレッシャー」に耐えられずに辞めてしまったのなら、それは教育者の全責任ではなく、単にその仕事の性質と本人の適性が合わなかっただけな可能性もある。
◾️出社しなかった派遣社員と畳まれた作業着
派遣の彼が出社してないことに気づいた係長は、派遣の担当者に電話確認。
担当者が電話しても電話に出ないらしく、寮に確認しに行くとのこと。
「来てないから今日も元の作業してくれ」と係長に言われ、フォークリフトを覚える予定がいつも通りの仕事に取り掛かる。
約1時間後、係長が作業中の僕の元へ来て言った。
それを聞いた時の感覚は、たぶん一生忘れない。
派遣の彼が辞めたからといって、誰かに怒られたわけでも責められたわけでもない。
だけど「もっと付いていてあげれば」という考えがずっと残った。
第2章:僕の前に10人続けて辞めた職場の教育者
言い訳に聞こえるかもしれないが、その職場は僕が入社する前に10人が続けて辞めていた。
だから今回派遣の彼が辞めたことも、職場の反応は「また辞めたか」程度で誰も驚いていなかった。
◾️僕に仕事を教えた10人に辞められた教育者
新人が辞めるのは教育者の問題だけではないと思う。
- 仕事が体力的にキツかった
- 二交替勤務が合わなかった
- 高圧的な人がいた
- 家の事情で辞めざるを得なかった...
ただその人がどんな教え方だったかというとこんな感じだ。
一度も自責に囚われない無敵のメンタルが生み出した、圧巻の10人連続退職サイクル。
性格が悪い人ではなかったし、雑談もするしフザケあってワイワイ仕事はできる。(相性の問題かもしれない)
それでも新人は10人続けて辞めた。
| 悩む教育者(あなた) | クラッシャー先輩(10人連続) |
|---|---|
| 自己帰属:「自分のせいかも」 【反省するから成長する】 新人が辞めたとき、環境や自分の教え方に問題がなかったかを内省する。痛みを知っているため、教育者として確実にレベルアップしていく。 |
他責思考:「あいつらが根性なし」 【反省ゼロ。だから何十人も潰す】 新人が辞めても「最近の若い奴は使えない」「俺の背中を見て盗めない奴が悪い」と相手のせいにする。一生改善されないため、被害者が無限に増える。 |
あなたの職場にいた「10人連続で新人を辞めさせた先輩」のような存在は、組織心理学で『クラッシャー上司(同僚)』と呼ばれる。なぜ10人も辞めさせるまで放置されるかというと「個人としての作業スピード」や「技術」は高いため、会社側が「あいつは仕事ができるから」と見逃してしまうから。(ピーターの法則)
しかし、10人辞めさせたクラッシャーは「俺の教え方が悪かったのか?」などと悩まないことが多い。「自分が悪かったのでは…」と自責の念で苦しんでいるあなたは、少なくともその時点でクラッシャーとは真逆の存在だ。
第3章:僕が仕事を辞めなかったのは教育者の問題じゃない
僕は「10人続けて辞めた持ち場で、やっと辞めなかった1人」ということになる。
結局その職場には、フォークリフト業務も合わせて7年くらいいた。
でも仕事を続けたのは、教え方が合っていたからというわけじゃない。
◾️「半年かかる」と言われた仕事を1ヶ月で覚えた
僕が新人として入社してすぐ、教育者は「この仕事を覚えるのに半年はかかる」と言っていた。
だけど僕は入社後1ヶ月で一人で作業するようになった。
そりゃ誰より早く仕事を覚える。
べつに偉くもなんともないただの事実。
自分がどうありたいかだけの問題で、人に求めるつもりはないし求めていいことでもない。
この「無自覚な自負」があったからこそ、相手にも無意識のうちに同じ学習スピードを期待してしまったのかもしれない。
◾️仕事が続いたのはやりたいことがなかったから
僕は「仕事はお金を稼ぐためにするもの」と割り切っている。
他にしたいこともないし、その仕事の給料が特別悪いわけでもない。
続ける理由も辞める理由もなかったので、ただ生活のために続けただけ。
最初はどんなに大変だろうが「人にできることは自分にもできる」と思っているし、何を言われても「仕事で見せてやればいい」で済ませられる。
こういう考え方をするのは少数なんだろう。
当時の僕はそれを理解しておらず、そのせいで新人が辞めてしまったんだと思う。
ロンドン大学のエレノア・マグワイア教授らの研究によると、世界一複雑なロンドンの道を暗記したタクシー運転手の脳をスキャンした結果、空間記憶を司る「海馬」が一般人より物理的に肥大化していることが判明した。これは才能ではなく、大人になってからでも経験によって脳の構造自体が変わる(可塑性がある)ことを証明している。
フロリダ州立大学のアンダース・エリクソン教授(「1万時間の法則」の提唱者)が音楽学校の生徒を調査した結果、世界トップクラスのバイオリニストと、普通レベルの生徒を分けた決定的な違いは「才能」ではなく「正しい負荷をかけた練習の総量」だけだった。生まれつきの天才は存在しなかった。
スタンフォード大学のアルバート・バンデューラ教授は、人間の自己効力感(自分にもできるという確信)を高める最も強力な方法の一つが「代理経験」だとしている。「自分と似た他人が成功しているのを見る」だけで、脳は「自分にもできる」と考え、学習スピードが爆発的に上がる。
第4章:きっと僕は10人に辞められた教育者と同じことをしていた
僕は「辞めるなら早いうちがいい」「やってることを見て覚えろ」という教育者に仕事を教わったが、あの人みたいにはならないようにしようと思っていた。
だからまず環境に慣れてもらったし、反応も見てその時にあった仕事を自分なりに言語化して教えていたつもりだった。
だけど新人に辞められたあとに気づいた。
やり方が違うだけで、やっていたことは同じだった。
◾️教育者が自分の基準を押し付けた
「僕はもうできると思ってるけど、不安なことある?」
僕は彼に一度も聞いていない。「もう大丈夫そうだな」は、全部こちらの判断だった。
僕は「仕事は自分で失敗して覚えるのが早い」と思っているし、この考えは間違ってないと今も思っている。
だけどその考えをそのまま相手に当てはめ、相手がどう感じているかを確認しなかった。
「見て覚えろ」を押し付けた人と「失敗して覚えろ」を押し付けた僕。
押し付けた中身が違うだけだ。
| 強い押し付け(絶対にやれ) | 自由と経験(失敗して覚える) |
|---|---|
| 結果:シャッターを下ろす 【自由を奪われたことへの防衛本能】 「俺の言う通りにしろ」と命令されると、内容の正しさに関わらず無意識の反発心(リアクタンス)が生まれ、指示の逆をやりたくなる。 |
結果:スポンジのように吸収する 【自分で決めたことには責任を持つ】 「やり方は任せる、失敗してもフォローする」と選択の自由を与えられると、自分で考えて行動するため、経験を100%の効率で吸収する。 |
心理学の『心理的リアクタンス』によれば、人間は「選択の自由」を奪われることを極端に嫌う。トイレの「落書き禁止」の張り紙で、強い命令口調にするほど逆に落書きが増えてしまうのと同じ現象だ。
新人が辞めるクラッシャー教育者は、自分のやり方を押し付けた結果、新人の脳に猛烈な「反発」を引き起こし、学習能力をシャットダウンさせる。
◾️体力的にきつい仕事でもあった
公平のために書いておくと、あれは楽な仕事ではなかった。
2交替で、1日中歩きまわって5〜20kgの荷物を運ぶ。
供給が遅れると製造が止まるのでプレッシャーもある。
だから僕の教え方だけが理由じゃないかもしれない。
でもそれを言い訳にするのはよくない。
体力的にしんどいと分かってるなら、慣れてきているか確認しながら休ませてあげればいい。
辞めた本当の理由は本人にしかわからない。
だけど予想して対策して、同じことを繰り返さない準備はできる。
第5章:10人辞めさせた教育者は一度も自分を責めなかった
もしかするとあなたは「新人が辞めたのは自分のせいだ」と自分を責めているかもしれない。
あの時の僕がそうだった。
だけどきっと、そう考えられること自体が成長につながるのだと思う。
僕に仕事を教えてくれた人は、10人続けて辞められても気にしていないようだった。
相手が自分の言葉をどう感じるかも、どうやれば覚えられるかも考えない。
だから10人連続で辞めたし、新人が続くかどうかは新人任せだった。
10人辞めさせた人は、一度も自分を責めなかった。
あなたが今「自分のせいかも」と感じているなら、
あなたはその人とは違う。
自分を責めている時点で、あなたは相手のことを考えている。考えていない人は、責めない。
◾️だからといって「あなたは悪くない」とは言わない
嘘は言いたくないのでハッキリ伝えておく。
あの時の僕には、新人の気持ちを確認しなかったという落ち度がはっきりある。
きっとあなたも新人に対して申し訳なさがあるから、この記事に辿り着いてくれたんだと思う。
あなたにも悪いとこはあった。
でも、後悔したままそこで止まると次の新人にも同じことをする。
人間は失敗して成長する。
第6章:新人を辞めさせた僕がやっている2つの確認
派遣の彼が仕事を辞めてから「どうすれば人が仕事を辞めなくなるのか?」と考えるようになった。
最低でもこの2つを独り立ちさせる前に聞くようになったことが、僕にとって大きな変化だと思う。
ポイントは自分の判断を先に言ってしまうことだ。
働き始めてすぐだと、自分が仕事をできているのかどうか本人はわからない。「どう?」だけだと「大丈夫です」しか返ってこない。
だからこちらから「できる」と現在の立ち位置を伝えてあげる。
ただ事実だけでなく気持ちを確認してあげることで、相手は素直に不安を出せる。
聞けない空気を作っているのは、たいてい教育者側だ。
忙しそうにしていたり、一回言ったことをもう一度聞かれてイヤな顔をしたり。
だから「聞けないことある?」と、こっちから確認できる空気を作ってしまう。
◾️声をかけることで新人教育が理由で辞める人がいなくなった
新人教育から数年経って「やっぱりこの仕事は合わない」と辞める人はいる。
それは止められないし、止めるものでもないと思う。
合わない仕事を我慢して続けたって、本人にとっても同僚にとっても会社にとっても良くない。
でも新人教育が理由で辞める人は、僕が声かけを意識し始めてからいなくなった。
気持ちを確認してあげるって本当に大事なんだと思う。
ロチェスター大学のハリー・ライス教授らの研究によると、人間が他者に対して最も親密さや信頼(この人を大切にしたいという思い)を抱く絶対条件は「知覚された応答性(Perceived Responsiveness)」だという。これは「相手が自分の欲求や感情を理解し、尊重し、反応してくれている」と感じること。
ハーバード大学のエイミー・エドモンドソン教授が提唱する「心理的安全性(組織への定着や生産性を高める最大の要因)」は、特別な制度で作られるものではない。上司や先輩が「何か困っていることはない?」「不安なことはある?」と、定期的に感情をヒアリングする声かけを行うことで醸成されることが分かっている。
人は「自分に関心を持ってくれる人」に対して、無意識に強い好意と信頼を抱くように脳がプログラムされている。(好意の返報性)感情を確認するという行為は「私はあなたという人間に強い関心がある」というメッセージとして相手の脳に届く。
◾️大事なのは「相手に合わせる」だけだった
気持ちの確認だけじゃなく、早く仕事を覚えられるヒントを渡すのも大事だと思う。
成長している実感を早く持てたほうが人は継続できるからだ。
でも辞めさせないために一番大切なのは、教育者が新人に合わせることだと思っている。
相性もあるから、数が増えれば辞めてしまう人も出てくると思う。
それでも合わせる努力はできる。
もし教育者としてしんどくなっているなら、後輩指導に悩む人へのほうも書いてある。
そして自分が限界なら、無理に教え続けなくていいと思う。
人それぞれ適性ってあるから。
転職活動に疲れた時の話も置いておく。
🌱 新人が辞めた…教育係の悩みQ&A
新人が辞めたのは教育係の責任ですか?
新人が辞める原因で一番多いものは何ですか?
自分が新人を辞めさせたかもしれないと落ち込んだ時はどうすればいいですか?
独り立ちさせるタイミングはどう判断すればいいですか?
「大丈夫です」としか言わない新人には、どう聞けばいいですか?
教育係に向いていないと感じたら、外してもらうべきですか?
新人が辞めたことを引きずってしまう時はどうすればいいですか?
それでも気分の落ち込みや不眠が長く続く場合は、厚労省の「こころの耳」などの無料相談窓口や心療内科を利用し、ご自身のケアを最優先にしてください。
あとがき:新人教育も人生も失敗の積み重ね
畳まれた作業着と手紙のことは、今でもたまに思い出す。
僕は「あの人みたいにはならない」と思っていたのに、結局は自分の基準を人に当てはめていた。
でも最近思うのは、失敗しない人間はいない。
だから失敗を糧にしながら改善していけばいいんだと思う。
もし今あなたが自分を責めているなら。
責めている時点であなたは相手を見ている証拠。
その感覚は、次に教える人のために取っておいてほしい。
きっとこれって、人生にも言えることだよね🦥
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ナマケ者
ゆる哲学の布教者/個人事業主
5歳で父を過労死で亡くし、HSP気質のまま働き続けた結果、ストレスが限界を超えて諭旨解雇。半年の引きこもりを経て今に至ります。毎日通っていたパチンコは7年近く行っていません。統計や法律は一次資料で確認して書いています。
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